第三十七回コラム「インド神話と七福の神々 part2」

ラクシュミー(吉祥天)

 

 太古宇宙の維持神であるビシュヌ神は不死の飲料を手に入れるため、大海をかきまぜるように神々に命じました。おおぜいの神々は力を合わせて大海をかきまぜると、大海から太陽や月が生じ、続いて美しい女神ラクシュミーが出現しました。神々は喜びラクシュミーを迎えました。ビシュヌ神はこの美しい女神を妻としました。妻となったラクシュミー神は、十の化身を持つビシュヌ神が姿を変えるたびに、その変化身にふさわしい姿になったと言われています。

 この2神は夫唱婦随のお手本と言われていました。ところが日本に伝来して吉祥天と呼ばれるよになったラクシュミーは、帝釈天配下の四天王のひとりである毘沙門天の妻ということにされてしまいました。大海から誕生したので大海生という異名を持つ女神が、いつのまにか鬼子母神の娘ということに日本ではなってしまったのです。

 吉祥天はさらに七福神からいつの間にか外されてしまいます。外された理由はマイナスなことではなく、みずからの罪を懺悔する人々を救い、助けを求める人々に多くの功徳を与え、霊験あらたかな吉祥天はある経典によると「吉祥摩尼宝生如来」という名の仏になられると説かれています。つまりお釈迦様とおなじ仏様になられるので七福神から外されたと言われています。

 

 転身した神々

 弁財天はもとはインド神話の女神でサラスバティー河を神格化したサラスバティー女神がその前身です。サラスバティーは水を有するものという意味を持ち、そのためか日本においても弁財天はたいてい湖畔や海辺に安置されています。

 日本で有名な弁財天といえば三弁天があります。「安芸の宮島」、「琵琶湖の竹生島」、「相模の江ノ島」の弁財天で、さらに「陸前の金華山」、「大和の天川」を加えて五弁天ということもあります。

 日本では弁財天は、「大弁財天」、「妙音天」、「美音天」などと呼ばれ、密教系仏教では音楽の神とされました。その前身であるインドの弁財天、すなわちサラスバティー女神は、ラクシュミー女神(吉祥天)やガンガー女神とともに宇宙の維持神であるビシュヌ神の妃でした。やがて三人の妃をもてあましたビシュヌ神は、ガンガー女神を宇宙の破壊神であるシバ神に授け、サラスバティー女神を宇宙の創造神であるブラフマー神に授け、ラクシュミー女神一人を自分のもとに残しました。ブラフマー神は日本に伝えられ梵天となり、シバ神は大黒天となりました。

 大黒天は福の神の代表として人気がある神ですが、インド神話の中ではマハーカーラという神でした。マハーは「大」、カーラは「黒」を意味し、文字どおり大黒というわけですが、先ほども言ったようにこのマハーカーラーは宇宙の破壊神シバ神の別名なのです。シバ神は本来は不吉の神であり、死の神、破壊の神なのです。そのシバ神がなぜインドの人々に崇拝され続けたかというと、輪廻転生を信じるインドの人々は、死の後には必ず再生があると信じていました。古いものが破壊されて初めて新しいものが出来上がると考えるため、そこにシバ神に対する崇拝が生まれるのです。

 ではなぜ恐ろしいといわれる神が日本では福の神になったのでしょうか。それには深いわけがあります。インドの寺院ではマハーカーラが台所に祀られていました。そのインドの風習が唐の仏教寺院に伝わり、日本にも伝わりました。そこで僧侶の妻を”だいこく”と呼ぶようになったのです。

 日本へ大黒天を伝えたのは平安時代であったと言われており、最澄は台所の神として伝え、マハーカーラは日本の寺院の台所で祀られるようになりましたが、日本にやって来た大黒天は日本の大国主命と習合しました。大黒天は”だいこく”と大国主命の”だいこく”ということでいつの間にか合体したのでした。台所の神となれば食料品を買わなければならないので金袋をもつイメージと、また大国主命が兄の八十神たちにいじめられ、金袋などの荷物持ちをさせられ遂には焼き殺されてしまったという二つのことがあったため、二人は習合してしまったという相当の理由が認められます。

 これらのことから、神様は災いや悪の面を併せ持つものだと理解できます。つまり人間に対して災いも福も与えうるのが神であるということなのです。

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