第七十九回コラム「仏教用語について part21」

冥福(めいふく)

 

 「ご冥福をお祈りいたします」はお葬式の場面などで幅広く口にする言葉です。話は変わりますが、宗教や宗派によっては作法や流儀が異なるため、使わないほうがいい場合もあります。

 「冥」は冥土、つまり「死後の世界」を、「福」は「幸せ」を表します。「冥福」とは死後の世界の幸せを意味し、「ご冥福をお祈りします」は死後の世界での幸せを祈っているという気持ちを伝える言葉になります。

 そのため「ご冥福をお祈りいたします」というお悔やみの言葉は、遺族に対して使われる言葉ではなく、故人に対して使う言葉になります。

本来、お悔やみの言葉というのは、遺族に対して発する言葉になりますので、もし、遺族に対して述べる場合は、故人に対して述べていることが分かるように伝えることが大切です。

 

油断(ゆだん)

 

「順調に物事が進んでいるが、油断せずにいこう」など、「油断」という言葉は注意喚起の意味で使われます。じつはこの油断という言葉、仏教の「ある例話」から生まれた仏教用語なのです。

 『涅槃経』(ねはんぎょう)という経典のなかに、次のような話が出ててきます。

「ブッダが説いた教えを守り続けていくことは、中途半端な気持ちではできないことだ。それはあたかも、王様の命令で一人の家臣が油を一杯に注いだ鉢を持って遠い道を歩かされ、もし鉢を傾けて一滴でも油をこぼしてしまったら、お前の命を断ってしまうぞといわれている状況と同じくらい気の抜けないことである」

 この話は、真実の仏教に生きようとするには命懸けでなければならないことを喩えたものですが、油は、ちょっとでも傾くとこぼれやすいものなので、正しい気づかいを保つことを「油鉢を保つ」と言い、抜かりがあったり、怠けたり、おこたることを「油断する」と言います。特に、仏教の修行ではこの油断が禁物で、昼夜を問わず、煩悩に左右されることなく、真実を仏道に求めてつとめ励むことが大切なのだと言われます。

 油をこぼしてしまったら命が断たれてしまうというくらいの真剣さで、日々の修行を行いなさい。日々の生活を「油断しないように」過ごしなさい。油断しないようにって、けっこう切実な言葉だったんですよ。

 

選択(せんたく)

 

 「選択」は、一般的には「せんたく」と読み、「多くのものの中から、よいもの、目的にかなうものなどを選ぶこと」を意味していますが、仏教ではこれを「せんじゃく」と読み、言葉の意味としては同じですが、特に南無阿弥陀仏のみ教えこそが最もすぐれ、最も修めやすいみ教えだとして、お釈迦様がお示しになられた数多くの教えの中から念仏一行を「選取」(選び取る)し、そのほかの一切の余行を「選捨」(選び捨てる)することをいいます。

 

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