第八十四回コラム「仏教用語について part26」

阿鼻叫喚(あびきょうかん)

 

 阿鼻とは阿鼻地獄のことを意味し、梵語のアビチーの音写語で、無間地獄訳される。この地獄に堕ちた者は、絶え間なく苦しみを受けるところから無間地獄とも呼ばれ、数ある地獄のなかでも最も苦しい地獄といわれています。この地獄に堕ちる者は、父、母、阿羅漢(世の供養を受ける資格をもった修行者)を殺した者、仏の身体を傷つけた者、教団の和合を破壊した者となっており、父、母を殺すなどということは、とうてい許されるべきことではないことがわかります。

 叫喚は叫喚地獄を意味するが、この地獄に堕ちると、苦しさのあまり泣き叫ぶところから、叫喚地獄と名付けられたものです。この地獄に堕ちる人は、人を殺した者、盗みをした者、酒を飲んだものなど、阿鼻地獄に比べると身近な地獄になっています。

異口同音(いくどうおん)

 

 「異口同音」は、中国の書物『抱朴子』(ほうぼくし)に由来しています。作者は葛洪(かつこう)で晋の時代の道教の研究家です。内篇20篇と外篇50篇からなり、神仙術について書かれた内篇の『道意』(どうい)の中に「異口同音」とほぼ同じ意味の「異口同声」(いくどうせい)という語が見られます。この語句が元となって「異口同音」ができたということです。時代が下って、中国の宋の歴史書『宋書』の「列伝傳第十三・庾炳之伝」に、「異口同音」という四字熟語が使われています。

 また、仏教の大乗仏教について書かれた経典「弥勒大成仏経」(みろくだいじょうぶつきょう)に、「異口同音」が使われたのが由来という説もあります。経典のなかでは、釈迦が唱えた説法に感激した多くの衆生(しゅじょう:この世にいる全ての命ある生物)が口々に誉め称える言葉を発する様子や、お堂に集まった仏教徒が口々に同じように念仏を唱えている所を描写して「異口同音」と表しています。

 

三蔵法師(さんぞうほうし)

 西遊記でおなじみの三蔵法師ですが、三蔵という名前のお坊さんだと思っている方も多いですが、実は「三蔵」は人の名前ではありません。

 そもそも「蔵」とは、サンスクリット語の「ピタカ」の漢語訳で、仏教に関するさまざまな文献の「集大成」を意味しており、「三」というのは、それらの文献を「経・律・論」の三種に分類したものを言います。そしてこの「経・律・論」の三蔵を翻訳した高僧のことを三蔵法師と呼びます。その三蔵法師の中で最も著名な、そして『西遊記』のモデルともなった玄奘(げんじょう)は、唐の貞観3(629)年冬に長安を出発し、西域の諸国を巡めぐって印度にまで至り、多くの仏像や経典を携えて長安に戻り、その後多くの訳経を行ったと伝えられています。

 玄奘は、訳出した数々の典籍(てんせき)、この玄奘の訳出した「三蔵」こそは、後の人々の求法の道しるべともなったのでした。現在も玄奘の訳出した「三蔵」の多くは、大蔵経(だいぞうきょう)などによって眼にすることができます。三蔵法師という呼び名は、単なる訳経僧ではなく、自らも求法の精神に溢れ、人々にもその依るべき手がかりを示した玄奘にこそ最もふさわしいのです。そう考えると「三蔵法師=玄奘」と、人々が思うのも納得できますね。

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