第四十三回コラム「法華経物語Part3」

巧妙な教え

 

 お釈迦様が瞑想をやめられ話し始めました。

 「生きとし生けるものたちよ、文殊菩薩の言う通りだ。」

 「今まで無数の仏たちが法華経という教えを説いてこられた。」

 「しかし残念なことに、その内容を理解できるものはいなかった。」

十大弟子のひとりで智慧第一といわれた舎利弗が、

 「仏の教えを直接聞いた弟子たちもですか?」と尋ねました。

お釈迦様はその通りだと答えました。お釈迦様はさらに続け、

 「諸仏は過去の世で生まれ変わるたびに修行を積み重ね真理を体得する努力を続けてきた。そうして得た仏の智恵はたやすく理解できるものではなく、相手によって表現を変え、たとえ話で示されてきた。」

 「しかし、信者たちはおろか直弟子さえも真意を理解できず、自分たちだけの苦しみや悩みを減らすことで満足してしまうのだ。」

 それでも法華経を説いて欲しい舎利弗は、お釈迦様に懇願しました。

お釈迦様はその願いを聞き入れ、法華経について話し始めました。

 「仏というものは、実は世の中がよごれきって人々が堕落するときに現れるものなのだ。そして、そのような人々を正しく導き、あらゆる人々が苦から解放され、さとりを開いて仏となれる道を示されるのだ。」

 「あらゆる人々が仏になることができるのですか?」と舎利弗が聞くと、

 お釈迦様は「その通りだ」と答えました。さらに、

 「わたしは今まで直弟子である声聞たちに、自己の内にあるもろもろの煩悩を克服して聖者になれと説いてきた。しかしその教えは仮の教えだったのだ。」

 「仏にいたる乗り物は実はひとつしか存在しない。だが、わたしは人それぞれの素質を考えて、今まで第二第三の乗り物という方便をもうけみんなを導いてきたのだ。」

 「仏にいたる乗り物に直接乗れる人とは、それは自己を捨てて他者を救うという本質に近づいた者のみ。すなわち自分がさとるだけでなく、他人もさとりに到達させようとする菩薩の生き方をする人々だ!」

 と説かれました。

 

 三種の乗り物

 

 舎利弗はお釈迦様の説法を聞き、今までは直弟子でが仏になれるとは聞いていなかったために、今の境地に甘んじて完全なさとりを見失っていたことに気づかされました。

 するとお釈迦様は舎利弗に対して話し始めました。

 「舎利弗よ、実は私は前世からそなたを導いてきたのだ。そしてこの大勢の人々の前でそなたが未来の世で仏になることを宣言しよう。」

 「そなたは何度も生まれ変わって大勢の仏に仕え、人のためにつくす菩薩の道を修めた後、その仏国土は食料も宝石も豊かにあって争いのない世界となるに違いない。」

 と話し、そしてさらに、完全なさとりに達するために菩薩の道を歩まなければならないことについてたとえ話で話し始めました。

 あるところに大勢の子供を持つ裕福な長者がいました。その広大な屋敷内にはあれほうだいの一軒家があり、子供達にはかっこうの遊び場となっていました。ある日突然この家が火事になり、子供達が火事に巻き込まれましたが、子供たちは火事を面白がりなかなか外に出ようとしませんでした。そこで長者は子供達に、

 「おまえたちが欲しがっている車があるから走って外に出ておいで」と言いました。子供たちは、

 「羊の引く車がいい」

 「鹿のがいい」

 「馬のがいい」

 などといいました。長者は

 「いいから早く来い!みんなに一つずつあげるぞ」と子供を説得し、火事で家が崩れる前に子供達を助け出すことに成功しました。

 この後長者は白牛の引く最高級の車を全員にあたえました。それは約束以上に立派なものでした。

 お釈迦様がたとえ話を話し終え、舎利弗に長者は嘘つきであるかどうか、どう考えると聞きました。

 「長者は子供を救うためにうそをついたのですから、後で乗り物を与えなかったとしても褒め称えるべきだと思います。」と述べました。

 お釈迦様は

 「その通り、そして諸仏はその長者と同じで生きとし生けるものの父なのだ。」と述べ、さらに

 「しかも三種の別々の乗り物ではなく全員に同じ車を与えられたのはなぜか。」

 「諸仏は人々を苦悩から救うため、声聞は声聞なりの、菩薩は菩薩なりの方法で導いてきた。しかし長者が結局は子供たち全員に最高の牛の車を与えたように、仏は最後には全ての人々を完全なさとりに到達させるのだ。なぜならば人類全てが仏の子だからだ。」

 「この法華経を舎利弗と全ての誠実な人々に捧げよう。」と述べ、説法を終えました。

 お釈迦様のこの言葉に霊鷲山上の人々は歓喜の叫び声をあげました。そして天上からは清らかに香る花が絶え間なく降り注いだのです。

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