第六十八回コラム「仏教用語について part10」

脱落(だつらく)

 

 脱落は、文字通り、脱(ぬ)け落ちることで、文章の中の必要な語句や文字が抜けることや、行動をともにしてきた集団や仲間についていけなくなることで、「同志から脱落する」「レース前半で先頭グループから脱落する」など様々な使い方があります。

 この脱落という言葉はもともと、仏教ではとくに禅宗でよく使われていた言葉で、そこでは捨て去るという意味で使われていました。「あらゆる自我意識を捨ててしまうこと」を意味する「身心脱落(しんじんだつらく)」という言葉があります。宗の天童山景徳寺(てんどうざんけいとくじ)で修行していた道元は、この言葉で悟りを開いたといいます。

 脱落は煩悩(ぼんのう)を払い捨て悟りの境地に入ることを意味する語ですから、現在とは違い、良い言葉として使われていたのです。

 

退治(たいじ)

 

 悪いものや害を及ぼすものをうち滅ぼすことをいい、ネズミ退治や昔話の鬼退治などで使われる言葉ですね。あるいは病気を治療する時にも使われています。

 仏教では「対治」と書き、意味は煩悩(ぼんのう)や怠惰(たいだ)な心を断つことです。仏道修行に専心するために煩悩の悪魔を降伏(ごうぶく)し、さまざまな障礙(しょうげ)を断ち切ることを対治といいます。

 仏道修行の過程で悟りのさまたげになる障害を除くことで使われていた言葉ですが、個々の障害を対症的に断じてゆくことから、病気を治す意味となり、一方「退治」を当てて、こらしめる、討伐するの意に用いられるようになったようです。

 

投機(とうき)

 

 投機とは、現在では経済用語として使われていて、短期的な価格変動の目論見から利益を得ようとする行為のことをいいます。

 この投機という言葉は実は仏教用語であり禅語で大事にされている言葉です。仏教での投機は、心機投合、師弟の心機(こころの動きや在り方)が投合するという意味があります。この言葉が経済界に転じて、「商品との機が投合して、資産を投じる」ことへと意味が変遷していき、現在の使われ方に変わっていったようです。

 禅の用語が経済用語になっているのはおもしろいですね。

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