第五十回コラム「仏教用語について part8」

隠密

 

 隠密と聞くと、時代劇の忍びの者が思い浮かびますね。戦国時代から近世にかけて、情報活動に従った下級武士のことで、幕府や各藩に属し、スパイ活動を行っていました。江戸幕府では御庭番といって将軍の住居の奥庭の番人でありながら将軍直々の命を受け秘かに諸国の動向を探ることもしていたそうです。

 この隠密と言う言葉は仏教では、仏の教えの本旨が経典の表面に明瞭に顕れて説かれている教えと、表に出ないで、言説の奥に内深く隠されている真意があるといいます。

 この言葉の前者を「顕彰」、後者を「隠密」と言っていました。

 お釈迦様は悟りの法、つまり真理は言葉では表現できないほど深遠で言語道断の世界で、以心伝心で伝わる世界だから隠密なのです。またもうひとつの隠密の意味は、人の能力に応じて説き方を変えねば伝わりません。真実をいきなり見せても理解されないから教化の手段として方便を使います。つまりその時は、真実は奥にあり、隠れていることから「隠密の義」といいました。

甘露

 

 寒い日の帰り道、湯気の立ちあがる鍋を肴に熱燗をキュッと一杯。そんな時に「甘露、甘露」と言いたくなりますね。一般的には甘露飴や、甘露煮など美味しい食べ物や飲み物のことを指して使われる言葉です。

 この甘露という言葉は、仏典などにも時々現れ、ありがたい如来の説法を「甘露の法雨」といったり、涅槃にいたる門のことを「甘露門」などといったりします。また甘露は天から与えられる甘い不老不死の霊薬で、中国古来の伝説によると、天子が仁政を行えば、天から降るといわれているものです。

 インドではサンスクリット語で「アムリタ」といい、仏典によると、様々な苦悩を癒し、長寿をもたらし、死者をも甦らさせる甘い霊液であり、常に天人たちはこれを食しているといわれ、いわば不老不死をもたらす霊薬のようなものです。

 お釈迦様が誕生の時、天界の竜王が下界して甘露を注いだと言う伝説から、四月八日には誕生仏に甘茶をかけるようになったそうです。

大袈裟

 

 「あの人の言うことは大袈裟だね」というように大袈裟な話しは、ほとんどが事実をオーバーに脚色して言う話しのことを言います。最近の言い方では「盛ってる」などとも言います。

 袈裟は、僧が衣の上につけている法衣のことをいいます。大袈裟は文字通り大きい袈裟のことをいいます。もとはサンスクリット語で赤褐色または黄褐色を意味し、仏教の草創期に僧侶が着ていた粗末な衣装のことでした。当初は貧乏教団だった仏教も、しだいに大宗教となり、それにともなって袈裟も高価な布に飾りをつけた立派な衣装に変わっていきました。僧がそのように大きな袈裟を仰々しくかけている様子から、多教団の僧侶たちが「おおぎょうだ」とけなしたことから、慣用語の「大袈裟」が生まれたと言われているそうです。

 

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