第四十五回コラム「法華経物語Part5」

はるかなる前世

 

 お釈迦様は霊鷲山において数万人の人々を前に法華経を説き続けていました。その中でお釈迦様は、弟子たちに向けてはるか昔の話を語り出しました。

 その昔、大通智勝という名の仏がおりました。はるか昔の仏の名前でしたがお釈迦様はその当時のことをはっきり覚えていました。なぜ覚えているのかというと、完全な悟りに達したものは、はるか未来も遠い過去も見通すことができるようになるからです。

 大通智勝仏は昔、国王であり十六人の王子の父親でした。大通智勝は国王である地位を捨て悟りを開こうと城を出ました。坐禅を組んでいると様々な悪魔が王の悟りを妨げましたが、王はその誘惑をことごとく打ち破り、あらゆる欲望を断ち切りました。大通智勝は悟りに達することができたと思いましたが、すぐには悟りに達することはできませんでした。そこで改めて坐禅を組み、身じろぎもせずに瞑想に長い年月ふけっていました。天の花、天の楽器が大通智勝をはげまし、天井の神々や天子たちが仏になるのを待ち望んでいると感じることができ、ついに大通智勝は完全な悟りに達しました。

 大通智勝が悟りに達し、体から放った光と振動は、はるか東方の梵天の世界にも伝わりました。その光におびただしい梵天たちが宮殿ごと西方へ飛んでいき、ほとけの前に現れ、全ての宮殿を捧げるので衆生を苦から解き放ち、悟りの世界へ導いて欲しいと懇願しました。ほとけはその願いを受け入れ、さとりに達する教えを説き始めました。するとそれを見ていた十六人の王子や声聞たちが集まり、出家して悟りの達しかたを学び始めました。

 大通智勝は何年にもわたって十六人の王子を中心に法華経を説き、賢明な王子たちは正しく理解して、その全てを記憶し菩薩となりました。

 その後、十六人の菩薩たちは法華経を説き続け、一人残らずほとけとなり、それぞれの仏国土で今も教えを説いています。この娑婆世界で教えを説く釈迦牟尼仏はその中の一人です。

 お釈迦様は話を続け、

 「遠い昔にわたしから教えを聞いたものたちとは、今ここにいるあなたたちなのです。永い時がかかるかもしれませんが、あなたたちはきっと完全なさとりを得ると約束されているのです。」

 「ほとけの知恵は深遠で理解するのに時を要します。私が入滅して他の世界でほとけになると、あなたたちは私の知恵を求めてまたその世界に生まれ変わるのです。」

 「完全なさとりにいたる乗り物はただ一つであると。それは菩薩の乗るほとけの乗り物だけなのです。」

 

五百人の弟子たち

 

 お釈迦様の話を聞いて十大弟子の中の一人で、もっとも弁の立つ富楼那が立ち上がり、

 「世尊よ、素晴らしい話をありがとうございました。説法第一と言われたわたしでも、これまでのほとけの功績を言葉で表すことはできません。」と述べました。

 するとお釈迦様は、

 「そなたも過去に九十億ものほとけ達のもとに生まれ、その教えを学んで人々に説いてきているようだ。」

 と富楼那に語りかけました。

 また、お釈迦様は富楼那に将来出現するほとけたちの世でも説法の第一人者となり数え切れない長い年月の後に、悟りの境地に達して法明という名のほとけになると言いました。また富楼那の治める国土を善浄といい、その国土の地面は平らで七種の宝玉で飾られており、空中には神々の宮殿が存在する。人々も神々もお互いに姿を見ることができ、人々の体は光り輝き、自由に空を飛ぶことができる。食物は二種類しかなく、知恵によって腹が膨れるという法喜食と、坐禅し瞑想することによって満腹になるという禅悦食しかなくなると予言しました。

 その後、残りの弟子たちにも予言を授け、いずれ必ず仏になることができると残りの弟子たちに伝えました。

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