第四十二回コラム「法華経物語 part2」

説法の前ぶれ

 

 インドの南ビハール地方にその昔、栄華を誇るマガダ国がありました。その都、王舎城の郊外に山頂の奇岩がつばさを休めるわしの姿に似た霊鷲山という山がありました。この山は瞑想と説法にふさわしく、お釈迦様がことのほか好んだ場所でした。

 その日、お釈迦様は王舎城のアジャセ王をはじめ、おびただしい信者に囲まれて説法をしていました。その中にはすでに悩みを消し尽くして聖者になった長老や直弟子たちもいました。お釈迦様の最初の説法を聞いたという阿若憍陣如、神通力に長けた木連、弟子中に智慧第一といわれた舎利弗、論議を得意とした迦旃延、説法第一といわれた富楼那、永遠の実体と絶対的な自我はないという空の思想をだれよりも深く理解した須菩提、つねにお釈迦様の侍者として仕えていたいとこの阿難、お釈迦様の一人息子でもっともよく戒律を守った羅睺羅などです。さらに文殊菩薩、観世音菩薩、弥勒菩薩といった悟りを求める求道者たち、またお釈迦様のおばである摩訶波闇波提やかつての妻の耶輸陀羅たち尼僧もまじっていました。

 空の上には仏法を守護する梵天や帝釈天、四天王などの神々、それに竜や迦楼羅などの生き物たちまでがとどまり遠巻きにしていたのです。

 そんな中、お釈迦様は大勢の弟子たちに向けて大いなる真理を説くと伝え、お釈迦様が瞑想に入られました。すると空から美しく嗅いだことのない花々が雨のように降ってきました。これこそまさに天の花でした。今度は突然地面が揺れ始め、少し時間が経つとお釈迦様の額から放たれた一条の光が東の空に広がり、あらゆる世界の生きとし生けるものの姿を映し出しました。それは天界や地獄界の世界全てが映し出されたといいます。

 

文殊菩薩

 なぜこのような世界をお釈迦様が見せたのかを文殊菩薩がこう説きました。

「あらゆる生き物は輪廻転生といって繰り返し死んでは生まれ変わります。わたしたちの現在の姿は、前の世でなした善悪の行為の報いであり、現在の行為はまた次の世へ引き継がれます。」

「つまり良い行いをすれば来世では幸せな存在に生まれ変わり、動物や地獄の世界に生まれたものは前世で悪行をなしていたのです。」

 文殊菩薩は何度も生まれ変わり、みほとけに仕えてきたのです。文殊菩薩はさらに前世の話をしました。

 「果てしない昔、完全無欠のさとりを得た、日月燈明如来という同じ名の仏が何度も何度もこの世に現れました。そして最後の日月燈明如来は入滅される前に同じ奇跡を起こして尊い法華経を説かれたのです。」

 「正しくは妙法蓮華経といい、全ての人々が仏になれるという教えでした。」

 お釈迦様もこれから法華経を唱えると文殊菩薩は言いました。

 するとお釈迦様が目を開き、真理を語り始めました。

 

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